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不適切にもほどがある【第1話感想】

 

 

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阿部サダヲさん主演ドラマ『不適切にもほどがある』第1話が放送されました。1986年と現代の二つの時代を描く本作は宮藤官九郎作品の価値観の変遷という意味でも、父と子の物語という点でも重要な作品に位置づけられると思います。

 

 

放送日・あらすじ

放送枠

TBS 金曜日 22:00~

放送日

2024年1月26日

公式サイト

金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』|TBSテレビ

基本情報

原作

ありません

脚本

宮藤官九郎

キャスト

小川市郎(阿部サダヲ)
犬島渚(仲里依紗)
秋津睦実/秋津くん(磯村勇斗)
小川純子(河合優実)
向坂キヨシ(坂元愛登)
向坂サカエ(吉田羊)

相関図はコチラ↓

相関図|TBSテレビ 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』

感想

宮藤官九郎

宮藤官九郎さんといえば平成を代表する脚本家の一人であることは間違いありません。

近年は『あまちゃん』『いだてん』のようなNHKの作品も手掛けており、クドカン作品に触れたことがない人のほうが少ないかもしれませんよね。
「観たことはなくてもタイトルは知っている」って方も多いと思います。

しかし一方で、彼の2000年代ごろまでの作品に投影されている価値観はかなり前時代的で場合によっては有害ですらあります。
その証拠に、アマゾンプライムやネットフリックスのようなネット配信で彼の作品を視聴しようとすると、エピソードによっては「この作品は○○年に制作されたものです」といった字幕が挿入されます。
主にLGBTに対する差別的な描写が含まれているときにそのような注意書きが挿入されます。
注意書きがないものでも、「当時の人たちはこの描き方、このセリフを許容していたのか!」ってビックリする、場合によっては気分が悪くなるものも多分に含まれています。
私が見た中では『うぬぼれ刑事』が特にひどかったです。

注意書き

このドラマで挿入されている注意書きはそういった事情を踏まえたパロディになっています。

宮藤官九郎さんは自身の作風や価値観が社会の変化に取り残されていることを自覚していると思います。
例えば男女共学化を描いた『ごめんね青春』のように、多様性を認める社会に適合しつつ、面白いものを作ろうというアップデート作業に取り組んでいるんですよね。

そういった意味で本作は宮藤官九郎さんなりの結論が示されるのではないか?集大成的な作品になるのではないか?という期待がありました。

1986年

トップガンの第1作が日本で公開されたのが1986年です。
音楽では少年隊の『仮面舞踏会』をはじめ、中森明菜、 おニャン子クラブなどアイドルが活躍していました。
プラザ合意が1985年ですのでバブル景気に突入しています。

宮藤官九郎さんは1970年生まれなので、当時16歳ですね。
Wikipediaによると宮藤さんの父親は学校の教師のようです。

宮藤官九郎 - Wikipedia

だとすると、本作は宮藤官九郎さん自身と父親の関係を描いていると見るのが自然ですよね。
「もし当時の父がそのまま現在の自分に出会ったら?」とか「今の自分が当時の父に出会ったら?」という視点が盛り込まれていくと思います。
『俺の家の話』から考えると「父との関係」も宮藤さんにとっては大切なテーマなのかもしれませんね。

これはこれで面白いのですが、私が期待していたものとは若干違うようです。
昭和と令和を比較すると「当時はこんなに粗暴だったんだぁ」って思ってしまいますが、私たちが向き合わなければいけない価値観の変化・境界線は2010年代中ごろだと思うんですよ。

完全に過去・歴史の一部となった時代と比べてしまうと片方の時代で当事者ではなくなってしまう気がするんですよね。
実際宮藤さんも当時未成年ですし。

時代の描き方

タイムスリップ系の作品では時代を象徴するアイテムや言葉を配置するのがお決まりですが、本作はそれを過剰に行っています。
多分、当時の人もすべての流行を取り入れていたわけではないと思うので、あくまで過剰で雑な昭和感を楽しむための演出だと考えたほうがよさそうです。

時代を表現するアイテムとしてたばこが登場しました。
タバコに対する価値観の変化は劇的ですし、その価格も大きく変化しています。
確かに今バスの車内でタバコを吸っている人がいたら白い目で見られるでしょうし、ここは面白かったです。

トイレに張られた二つの時代の小泉今日子のポスターが時空をつなぐトンネルになっているというのも『ショーシャンクの空に』っぽくて好きでした。
時空を超える理屈について特に説明がないのもまどろっこしくなくて見やすかったです。
トイレが異世界との玄関口になっているのは『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』を思い出しました。

気になった点

第1話も十分面白いですし、宮藤官九郎さんの作品って尻上がりに面白くなっていくことが多いので、私は本作を見続けるつもりですが、気になったこともありました。

昔の時代を持ち出すと「昔はよかった」という結論にどうしてもなってしまいがちなんですよね。
今更「昭和は間違っていた」という結論を示しても「へぇ、そうなんだ」ってなっちゃうだけなので、「昭和の価値観で現代の諸問題をとらえなおす」とか「昭和にも良いところがあった」的な感じになりやすいと思います。
そういう引力が宿命的に働いていて、気を抜くとそっちの方向に進んでしまいます。

でも社会は昭和的なものがダメだから変わってきているわけで、「何を昭和的な良さとして提示するか?」にはかなりセンスと批評的な目が必要とされるのではないでしょうか?
単なる懐古主義になるのは避けてほしいです。
第1話のパワハラをめぐるミュージカルについても、結局極端な例を持ち出して対立させているだけです。
「がんばれ」って言っただけのことを、まるで壮大なロマンスのようにミュージカルにしてしまうという演出は面白かったですし、今後に期待します。

おわりに

38年前ということは秋津は小川の孫世代にあたるのでしょうか?

実際の孫だとしたら顔に見覚えがあるはずですし、これからいろいろな事情が明らかになってくるのでしょうね。
『BTTF』を引用していますし、タイムパラドックス的な展開もあるのかも。
各時代を巡ていると思われる向坂親子についても気になりますね。