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VIVANT【第10話(最終回)感想】私は好きじゃない

 

 

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堺雅人さん、阿部寛さんをはじめとする日曜劇場オールスターが出演した『VIVANT』第10話が放送されました。伏線回収というか辻褄合わせに終始した内容は面白くなかったですし、提示される価値観の危うさが気になってストーリーに集中できませんでした。

 

放送日・あらすじ

放送局・放送枠

TBS系列 日曜日 21:00~

放送日

2023年9月17日

あらすじ

あらすじ|TBSテレビ 日曜劇場『VIVANT』

配信状況はこちらか公式サイトをご確認ください↓
VIVANT - ドラマ情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarksドラマ

 

キャスト

乃木憂助(堺雅人)
野崎守(阿部寛)
柚木薫(二階堂ふみ)
黒須駿(松坂桃李)
ノゴーン・ベキ/乃木卓(役所広司/林遣都)
ノコル(二宮和也)

相関図はコチラ↓
日曜劇場『VIVANT』|TBSテレビ

感想

まず最初に

私は第1話を観た時からこのドラマをそれほど好きではありませんでした。
でも、日本の他のドラマではありえないほどの予算をかけ、海外ロケを敢行し、オールスターキャストを集め、海外配信も視野に入れる野心的な取り組みには魅力を感じていました。
そのため、多少「んっ?」って思う箇所があっても多めに見ていましたし、応援する気持ちでここまで鑑賞を続けてきました。

でもこの最終回はさすがにダメだと思います。

一番気になったこと

このドラマが第2話で『アラビアのロレンス』ごっこを始めた時から「ヤバいな」とは思っていました。
2月のタクラマカン砂漠がいくら日中とはいえ暑いなんてことがあるのか疑問ですし、彼らの服装はアラブ人の物であの周辺に住んでいるであろう民族の装束ではないんですよね。
時々披露される宗教への描写も怪しかったんです。
第1話冒頭の「天照大神、イエスキリスト、……」っていうセリフも(間違いとまでは言えないけれど)違和感がありました。
キリストって神というよりは神の子ですからね(三位一体説は置いておきます)。

今回ベキが開陳した宗教観は巷でもたまに聞かれる「多神教の一神教に対する優位性と日本文化の寛容さ」みたいな話でした。
この中で語られる一神教は多神教の文化圏の人がイメージする一神教であって、本来の一神教とはかけ離れています。
それに後半は論語の仁の思想が混ざっていました。
それ、中国の思想ですよ。

この他文化へのリスペクトのなさは海外進出を狙うドラマとしては致命的ですし、危うさを感じます。

私は宗教の専門家ではないので、私の指摘が間違っているかもしれません。
その場合はごめんなさい。

次に気になったこと

やっぱり別班ってヒーローとして扱うには注意が必要な組織です。
「シビリアンコントロールが効かない」という致命的な欠点を抱えているため、民主主義社会には相容れないんです。

例えば『ミッションインポッシブル』とか『007』とかでは国家は組織を解体しようとしているんですよね。
これらの映画の感じで、「時代遅れの遺物」「決して日の目を見ない組織」として描くのであればギリギリ許せるんですが、このドラマはその存在を肯定的に描きすぎです。

「重責を担う人を殺させるわけにはいかない」とか「自分の命より大義を優先する」とか、テントにも別班にも全体主義っぽさが漂います。

別にそういう考えの持ち主がいてもいいんですけど、そのようにしか生きられない悲しさや矛盾の中での葛藤を色濃く描いたほうが良かったと思います。

「世間ではただのテロリストとしてベキの死が伝えられているが、乃木にだけは真実が分かっている」とかね。

第10話の内容

さて、細かい内容を振り返りたいと思います。
採掘の主導権を巡るやり取りは『トリリオンゲーム』の最終回に似ていました。
パソコンのカメラをハッキングするという手法まで一緒です。
個人的には『トリリオンゲーム』の方が理屈が通っていたようにも思います。

やっぱり、「テントは解散する」とか「孤児たちを養っていた」とかいくら理屈をつけたとしてもテロで得た資金をもとにした資源開発に与するのは無理です。

ビジネスと人権|外務省 (mofa.go.jp)

それに、ノコルは手を染めていないからOKというのもそんな理屈通りません。
「見て見ぬふり」は許されないんです。
それにもみ消しのために人を殺しています。

別にこういう展開自体を否定しているわけではありません。
問題なのはそれを悪いこととして描いていない点です。
というか悪いこととして描いていたのに、ベキが二転三転しているうちに有耶無耶になってしまったんです。

ベキを水戸黄門のように登場させるのもやっぱり納得できないです。

【皇天親無く惟徳を是輔く】の意味と使い方や例文(出典) – ことわざ・慣用句の百科事典 (proverb-encyclopedia.com)

全体の幸せのためにどこかで誰かが虐げられている現状が問題なんだと思うんだけどなぁ。

「人間だれしも良い面と悪い面がある。ベキの行為を全否定できるだろうか?」という問題提起は良いですけど、善悪を相対化したままで終わるのは思考停止です。

父親殺し

お話には基本となる型があります。
このドラマの基本はオイディプス王以来の伝統的な「父親殺し」型です。
要はスターウォーズです。

そこにカインとアベル的な兄弟の物語が加えられ、物語に厚みが出ているんですけど、そもそも乃木は捨てられたわけではなく連れ去られたわけですし、そのことを乃木本人も知っていましたし、ちょっとストーリーの軸が弱いんですよね。

だから親と子の確執が仲間を見捨てた見捨てないの話に置き換わっているし、最後のベキの銃口も乃木に対しては向けられていないんですよね。
弾が入っていなかったのは『グラントリノ』かな?

とにかく終盤になるにつれて軟弱な軸となるストーリーは見切りをつけられ、伏線の回収とどんでん返しの様相が濃くなり、グニャグニャしながら終わってしまいました。

国家とは?

このドラマのもう一つの大きなテーマは「国家とは何か?」だと思います。
ベキは公安として国家のために尽くしたのに国に裏切られ、妻や家族を失いました。その後疑似家族を作りテロを行っています。
バルカ政府は私利私欲にまみれ孤児たちを救うことをしません。
別班は国を守る任務を負いながらもその存在は非公式であり簡単に切り捨てられる存在です。
山本のようなモニターは国家に反逆していますし、ブルーウォーカーは国家に縛られないスキルを持ちながらも長野の父性に惹かれています。
遊牧民は定住しておらず、国家の辺境に位置するような存在です。

現代の日本では地域のコミュニティが崩壊し、核家族化が進んだことで個人と国家が直接つながるような社会に変質しています。
例えば氷河期世代のように非正規雇用のせいで会社という組織にも属せず孤独を抱えている方も多いです。
「国家しか頼るものが無いのに国家は何もしてくれない」という不満は至る所に渦巻いています。
“国家”を“神”と置き換えれば、答えてくれない神にひたすら信仰心を試される『ヨブ記』のような状態です。
カフカにも近いのかな?

そういった社会背景の中で、このドラマには「国家とは何か?家族とは何か?コミュニティとは何か?」を問い直すテーマがあったように思います。

問題提起はされていますが、明確な答えが示されたわけではないので、続編が作られるとすれば乃木がどのような家族を作っていくのかが描かれるでしょうね。

おわりに

日本のドラマが世界に進出するためにもっとも必要なのは豊富な資金でも制作力でもなく、倫理観と人権意識、国際感覚だと思います。
私は本作を失敗作だと思っていますが、この試みは続けてほしいし、いずれ傑作が生まれるとは思っています。
世間の関心を引き付けたという事実は偉大だとも思います。

個人的にはマカロニウエスタンの『続・夕陽のガンマン』的な感じが見たかったなぁ。