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海に眠るダイヤモンド(TBS・日曜9時00分・神木隆之介/杉咲花/土屋太鳳)感想

 

 

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神木隆之介さん出演ドラマ『海に眠るダイヤモンド』全10話の放送が終わりました。全10話を見届けた感想を書きたいと思います。時間的・空間的広がりの中で、死を内包したストーリーを描く作品でした。「故郷は遠きにありて思ふもの」といった望郷の思いを抱かせてくれます。

放送日・あらすじ

放送枠

TBS 日曜日 21:00~

放送日

2024年10月20日~2024年12月22日

公式サイト

日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』|TBSテレビ

基本情報

脚本

野木亜紀子

キャスト

鉄平( 神木隆之介)
進平(斎藤工)
朝子(杉咲花)
リナ(池田エライザ)
賢将(清水尋也)
百合子(土屋太鳳)

玲央(神木隆之介)
いづみ(宮本信子)

相関図はコチラ↓
相関図|若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―|日本テレビ

感想

軍艦島が舞台

世界遺産にも登録されたので、「軍艦島」の名前を知っている・聞いたことがある人は多いと思います。
テレビでも、日本の高度経済成長期に沸く軍艦島での暮らしぶりがよく特集されています。

本作の魅力は当時の軍艦島での暮らしぶりが生き生きと描かれている点です。
「端島(軍艦島)では水が貴重」というエピソードひとつをとっても、これまで知らなかった島に関する知識を伝えてくれるだけでなく、その当時の人々の暮らしがどのようであったか思いをはせるきっかけとなります。
ただ、このドラマが面白いのはそういった雑学的な要素にとどまりません。
端島の持っている構造自体にその面白さがあるんです。

時間的・空間的広がり

限られた土地に多くの人が住んでいたため街が縦に広がっています。
そして、上に行くほどお金持ちが住んでいて、敷地も広いんですね。
さらに下方向へ目線を移すと、海の下には黒いダイヤ(石炭)を採掘するための炭鉱が広がっています。

横軸にこの世界を観察すると、リナに代表されるように、日本各地から仕事を求めて端島に労働者たちが集まってきています。
関西弁の話し声が街中で聞こえたりもします。

さらに時間的な広がりも表現されています。このドラマは「since1955」と書かれているように、1955年から現在までの時の流れが描かれています。
しかし、1955年以前の世界、第二次世界大戦の傷跡が大きく登場人物たちに影を落としている様子も描いており、時間的な奥行きを持っています。
現代の朝子たちにつながっていることや、長崎には隠れキリシタンたちがいたという歴史的なバックグラウンドを含めると、何百年もの時間的な蓄積を感じられます。(石炭が生まれる過程を考えると地球的な規模での時間の流れも含まれていますね。)

このような時間空間の広がりが詰め込まれ、端島という小さな島に表現されているところが本作の魅力です。

逃れられない運命

そして、このドラマを特別にしているのが、常に「死」が付きまとっている点ですね。
石炭は植物の死骸が長い時間をかけて炭化したものであり、島自体が死を内包しているという説明には感心しました。
いずれ端島炭鉱が閉山されることを我々は知っています。島での物語もいずれ終わりを迎えることは、ドラマの中でも初期から予感されています。
島全体がまるで一つの生き物のように「いずれ死を迎える」逃れられない運命を抱えているという背景が、物語に深みをもたらしています。
息子を戦争で亡くした鉄平( 神木隆之介)の父親や、被爆した百合子(土屋太鳳)の体験した不条理はまさに「運命」としか形容できないです。
鉄平と朝子の別れ、新平の死、これらも避けられない運命ですよね。
長崎という土地が、かつて隠れキリシタンたちが信仰を続けていた苦難の歴史を持っていることを知れば、逃れられない宿命の中で懸命に生きること、赦すことの尊さに説得力が増すはずです。

帰れないふるさと

鉄平は罪を背負い、人生を全うしました。
彼は愛する島に戻ることも、恋人や友人たちに再会することはありませんでしたが、実は鉄平に限ったことではありません。
あの島で暮らしていた人たちは、等しく故郷を失っています。

現実にも例えば東日本大震災で故郷を離れざるを得なくなった方や、昨年の北陸の震災で避難生活を余儀なくされた方などもいらっしゃいます。

故郷という言葉から連想するような美しい山河など存在しないコンクリートと石炭の島にも望郷の思いを抱いている人がいるということが、ノスタルジックな気持ちを思いおこさせてくれます。

面白かった点

このドラマはいづみ(宮本信子)が玲央(神木隆之介)と出会うところから始まります。
この現代パートは終盤に至るまで「いづみの正体は?」という一点にばかり焦点が当てられていました。
誰だかわからない人を中心にストーリーが展開していくため、当然その周辺の人にも感情移入はできません。
この現代パートの機能不全がこのドラマをとっつきにくいものにしてしまっ他店は残念です。

しかし、良い面もありました。

このドラマは『タイタニック』に似た語り口であるとの指摘が良くなされていますが、いづみと玲央の関係に関して言えばむしろ『ある日どこかで』という映画からインスパイアされたんではないかと感じます。

『ある日どこかで』タイムスリップを題材として扱うファンタジックな内容で、時空を超えた恋愛を描いた作品です。
このドラマにはタイムスリップが登場しないかわりに、鉄平の日記と鉄平と玲央が似ているという設定が加えられています。
最終回では「あくまで日記を読んでいるだけで、ドラマのように見える回想シーンは各人の頭の中にイメージされたものだ」という設定がストーリーに生かされています。
鉄平自身は写真を撮影する側で、画像が残っていないというのも「なるほど」と思わせてくれます。

おわりに

石炭と同じく隆盛を極めたものの一気に斜陽産業化する映画館もこのドラマに深みを与えてくれていますね。