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笑うマトリョーシカ(TBS・金曜10時・水川あさみ)第11話(最終回)感想

 

 

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水川あさみさん・櫻井翔さん出演ドラマ『笑うマトリョーシカ』第11話(最終回)が放送されました。主体性のない人間が政治の実権を握ることや、その人間に白紙委任してしまう世論の空虚さを描いていて、社会派ドラマとして満足のできる最終話になっています。

放送日・あらすじ

放送枠

TBS 金曜日 22:00~

放送日

2024年9月06日

公式サイト

金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』|TBSテレビ

基本情報

原作

早見和真『笑うマトリョーシカ』

脚本

いずみ吉紘
神田 優

キャスト

道上香苗 水川あさみ
東都新聞の記者。社会部から文芸部に異動。
鈴木俊哉 玉山鉄二
清家の政務秘書官。
清家一郎 櫻井翔
厚生労働大臣。未来の総理候補。

山中尊志 丸山智己
青山直樹 曽田陵介
道上香織 筒井真理子
道上兼高 渡辺いっけい
旗手健太郎 和田正人
佐々木光一 渡辺大

相関図はコチラ↓
相関図|TBSテレビ 金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』

感想

黒幕の正体

前回、これまで清家を陰で操っていると目されていた浩子らが黒幕ではないことが明らかになりました。
今回はそれを受けて、黒幕探しの最終章として羽生総理に一応触れましたが、結構速足で進んでいきましたね。

おそらく多くの方が「黒幕はいない」という結末に着地することは予測できていたと思いますし、脚本的にもそれほどこの部分に力点は置いていないような感じでしたね。

櫻井さん演じる清家

今回の見どころは清家と道上の対決です。
そこに至るまでの間に、清家の気味悪さが小出しに描かれています。
たとえば、あれだけこだわっていた首相公選制を道上の助言であっさり取り下げる様子の異常さは際立っていました。
ほかにも、女性の社会進出を促すクオーター性の導入について道上の意見を丸呑みし具体的な数値まで特に検討することもなくそのまま発表するのもかなり変でしたね。
このふたつの清家の行動で、自分の発言がそのまま政策として実現してしまう状況、権力をほしいままにできることの魅力がうまく簡潔に描かれていました。

そういう気色悪さが極致に達するのが清家による真相の告白でした。
自身の空虚さを自覚し、何か指針を与えてくれる人物を見つけその人物に寄生する、彼の送ってきた人生のむなしさには興味をそそられます。
自分を利用しようと接近する人間たちを「見くびられたくない」というプライドの問題だけで切り捨てる一方で、新たな宿主を求める彼の生き方は狂気に満ちています。
「何もやりたいことがないのに総理大臣にまで上り詰めてしまった」なんて、人を魅了し、表面を取り繕う才能があるというのも不幸なことですよね。

櫻井さんの演技や、仕草の一つ一つも良かったと思います。
櫻井さんはアイドルという現実離れした存在であり続けることと、キャスターとして現実を伝えるお仕事の両方をこなしている稀有な方で、櫻井さん以外にこの役を演じられる人はいないのではないかと思うぐらいハマってました。

アイデンティティ

清家はアイデンティティを確立することに失敗した大人です。
現在40代ぐらいの方が当てはまるのかどうかはわからないですが、「自分探し」のような言葉は普及してからかなりの年数がたち、すでに一般的になりましたよね。
自分が何者かわからない、やりたいことがない、という人は少なくないと思います。
むしろほとんどの人がそうなのではないか?とすら思いますよね。
このドラマはそういう現代の日本に典型的な人物を、政治家という何かを成し遂げたい人こそがなる職業に配置したミスマッチにあります。
しかし、現実にも2世議員はあふれていて、「親が政治家だったから政治家になった」だけの人がいてもおかしくありません。
このドラマはそんな社会の現状に警鐘を鳴らしているのかもしれないですね。

終盤では緊急事態条項に関する憲法改正が成立した後の様子が描かれていました。
場合によっては自身の権利を大きく制約しかねない法律を、空虚な政治家である清家に導かれるまま賛成に投票してしまう有権者たちの様子、自分の頭で考えることなく政治家に白紙委任してしまう様子は清家とその依存先の関係とパラレルです。
つまり、清家という存在は奇妙なようでいて、一方で我々自身なんですね。

希望

そんな中、道上がジャーナリストとして役割を果たす様子や、道上の息子が学級新聞で啓発活動を行う様子は一種の希望として描かれていましたが、個人的にはそれほどなんとも思いませんでした。

私にとっては元秘書の鈴木が区議会議員として街頭演説に臨む様子のほうが印象に残りましたね。
青年期に父親が事件を引き起こしたことでアイデンティティに亀裂が入っていた彼が、それまでひた隠しにしていた自身の出自を明らかにし、やりたいことのために自らの足で立つ様子は感動的です。
まぁ、そもそもBG株事件の犯人の息子だから政治家にはなれないという理屈もよくわからないですけど。

おわりに

途中でかなり停滞しましたが、終わってみれば今の日本の現状に対する問題意識を表現できていて社会派のドラマとしてそれなりに面白かったと思います。
wowowで5話ぐらいのドラマにすればもっと良かったかも。